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羊の皮を被った悪魔か神の使徒か『幼女戦記』感想解説|鷹野凌の漫画レビュー

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こんにちは、フリーライターの鷹野凌です。

今回は、KADOKAWA『月刊コンプエース』で連載中の漫画『幼女戦記』をレビューします。原作はカルロ・ゼンさん。キャラクター原案は篠月しのぶさん。コミカライズ担当は東條チカさんです。もとは小説投稿掲示板「Arcadia」に連載されていた作品で、エンターブレインから商業出版されました。ヨーロッパそっくりの地域を舞台に、周囲の国と戦争中の「帝国」に従軍している、魔導師の幼女の物語です。原作小説は7巻まで刊行中(電子版は6巻まで)。コミックスは3巻が1月26日に発売予定。また、1月からテレビアニメが放映中です。

■アニメ「幼女戦記」公式サイト

幼女戦記(1)
『幼女戦記』 1~2巻 東條チカ・カルロ・ゼン・篠月しのぶ / KADOKAWA / 角川書店

幼女の中身はおっさん

主人公は魔導師の幼女、ターニャ・デグレチャフ。拡張主義国家で、軍事主義で、国民皆兵制の「帝国」に、捨て子の孤児として生まれます。この「帝国」は、第一次世界大戦、第二次世界大戦ごろのドイツがモチーフになっているようです。ターニャは天賦の魔導適性を見出され、たったの9歳で帝国航空魔導師として徴用され、国境警備の最前線に送り込まれます。

なんとも悲惨な身の上なターニャですが、それもそのはず。実は彼女は「創造主」を名乗る存在Xによって、前世の記憶を保持したまま懲罰的に異世界へ転生させられたのです。前世は、現代の東京で働くサラリーマン。つまりターニャの中身は、おっさんです。外見は愛らしい幼女ですが、中身はおっさんです(強調)。

前世のおっさんは、リストラを担当していました。職責には忠実で冷酷。そのためか、クビにした相手から逆恨みされ、地下鉄のホームから突き落とされあっけなく死んでしまいます。死後の世界で出会った「創造主(存在X)」から信仰心の欠如を嘆かれ、「非科学的な世界で女に生まれ戦争を知り追い詰められるがよい!!!」と、転生させられた姿がターニャなのです。

愛らしい姿との激しいギャップ

実際のところ、外見は非常に愛らしい少女です。辞令を受け取り自室ではしゃぐ姿。背が小さいため、テーブルから顔しか見えてない姿。椅子の上に立ち上がっても、周囲の大人たちより小さい姿。思わず萌えてしまいそうになります。でも、中身はおっさんです(重要)。ええ、「これ、萌えていいのか?」と、たびたび煩悶させられます。

そもそもこの作品、登場人物のほとんどが、おっさんです。多くの場面が、硝煙と血の匂いで充満した、銃弾や砲弾が飛び交う戦場です。タイトルから萌え系を期待すると、痛い目を見ることになります。完璧に、中身が外見を裏切っています。超シリアスな戦記ものの中に、なぜか愛らしい姿の幼女(中身は冷酷なおっさん)が混在しているという「ギャップを楽しむ」のが、正しい読者の姿かもしれません。

要所要所に出てくる見開きのどアップでは、愛らしい外見が崩れ、中身のおっさんを表出したかのような禍々しい表情のターニャを拝むことができます。羊の皮を被った悪魔だ、これ。なお、テレビアニメのキャッチコピーは「其れは、幼女の皮をかぶった化物」です。ぐえぇ。

たとえ前世の記憶を残したまま転生しても

前世のおっさんは、天才には比肩できず、努力では秀才に及ばず、人格は歪んでいる、と自己評価しています。自分は凡人だと断言しているのです。が、恐らくそれなりに優秀なサラリーマンだったと思われます。というのは、魔導師としての能力の高さは「創造主(存在X)」の差配だとしても、戦術や物流に関してなど幅広く有用な知識を持っているからです。

魔法が存在するとはいえ、科学技術や戦術レベルは100年ほど前の世界。現代の知識を保持したまま転生すれば、周囲と差がついても当たり前――ではないはず。ただのサラリーマンであり、戦争の専門家だったわけではないのですから。たとえ前世の記憶を残したまま異世界へ転生したとしても、前世で知らなかったことは転生後にも活かすことはできないのです。

たとえば、ターニャが9歳で士官学校を卒業する際の論文は、小規模集積所の配備と梱包の規格化という、現代の物流に関する知識を披露しています。なぜ宅配便があれほどの低料金で効率よく配送できるのか? というのは、物流業界以外の人が説明するのは難しいことではないでしょうか。その上、戦争戦術にも長けているわけで。自分のことを凡人というのは、謙遜に見えます。

神の使徒に見えてしまう呪い

ただ、ターニャはおっさん時代の性分からか、戦果を上げ、立身出世を遂げ、安全に後方待機する将校になることを夢見ています。そういう意味で、凡人なのかもしれません。もっとも、ピンチに陥ったときでも笑顔を浮かべながらサクサク敵を殺していったり、命令違反した部下を砲弾の標的になりやすいトーチカに待機させて戦死させたり。人格が歪んでいるという点は、自己評価通りでしょう。

のちに、強力な魔力を発揮する奇跡の演算宝珠という装置を使うときには、「祈りの言葉」がターニャの意志とは無関係に湧き出るようになります。第三者からは、まるで敬虔な神の使徒かのように見えるその愛らしい姿。しかしそれはやはり「創造主(存在X)」のしわざ。ターニャはその宝珠を、「くそったれ」の呪われたチートアイテムだと思っているのです。

内面と外見のギャップは、この先どんどん大きくなっていくのでしょうか? 続きが楽しみです。

幼女戦記(1)

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