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日常系ミステリー?『それでも町は廻っている』感想解説|鷹野凌の漫画レビュー

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こんにちは、フリーライターの鷹野凌です。

今回は、石黒正数(いしぐろ・まさかず)さんの漫画『それでも町は廻っている』をレビューします。少年画報社の青年向け月刊漫画誌『ヤングキングアワーズ』に連載されており、最新話は無料アプリ「マンガ少年画報社(Android / iOS)」でも読むことができます。単行本は本稿執筆時点で15巻まで刊行中。2010年にはTBS系列でテレビアニメが放映されました。

それでも町は廻っている 1巻

『それでも町は廻っている』 1~15巻 石黒正数 / 少年画報社

「こんなのメイドカフェじゃないッ」

タイトルロゴの脇に「通称“それ町”」とわざわざ書いてあるので、以下は通称にて。“それ町”は独特な雰囲気のある日常系コメディ漫画です。主人公は女子高生の嵐山歩鳥(あらしやま・ほとり)。相当な天然ボケでドジで脳天気な行動派なのですが、小説が好きな文学少女でもあります。妙なところで勘が鋭く、町で発生するちょっとした事件の謎を推理で解き明かしたりします。将来の夢は女子高生探偵。ん?

歩鳥は、丸子町商店街のメイド喫茶「シーサイド」でアルバイトをしています。メイド喫茶といっても、昔ながらの喫茶店で歩鳥とおばあさんがメイド風の衣装を着てるだけ。看板も、手書きで「メイド」と書いた紙がテープで貼り付けてあるやっつけ状態。定番の挨拶「お帰りなさいませ、ご主人様」もなし。お店を覗きに来た同級生の辰野トシ子(たつの・としこ)が「こんなのメイドカフェじゃないッ」と怒り出すほどです。

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“それ町”の連載が始まったのは2005年。メイド喫茶が流行り始めたのも、ちょうどそのころです。「商店街の喫茶店が、流行りに乗ってメイド喫茶にしてみたけど、どうもコレジャナイ感が漂っていて、お客は常連の周辺住人ばかり」という状態を漫画に描いている、と言うとわかりやすいでしょうか。この、コレジャナイ感が、実にいい味なのです。

1巻のあとがきによると、著者の石黒さんが東京の下町に引っ越してきたら、近所の商店街の人たちが誰彼かまわず挨拶を交わすような「人情の町」だったことを気に入り、商店街を舞台にした「コミュニケーションの教科書になるような漫画」を描こうと決めたのが“それ町”誕生のきっかけだったそうです。それを知ってから作品を見返すと、登場人物たちがたまに見せる暖かい眼差しや人情味溢れるセリフがじわりと胸にしみてきます。

迷探偵・歩鳥の推理が冴え渡る?

前述のように、歩鳥はときどき、周囲で起きる事件の謎解きをします。と言っても日常系の漫画なので、殺人や強盗といった大事件が起きるわけではありません、例えば、祖父の遺品を整理したら出てきた奇妙な絵が描かれた理由は? とか、毎日同じ時間に病院の中庭で15分ほど過ごす入院患者が何をしていうのか? とか。

1巻4話と5話のあいだにある「恐怖の現代病 探偵脳」という解説ページに「第二期症状(謎の追究)日常生活の中からちょっとした不思議を見つけては頭をひねり始める。」とあり、歩鳥はこの状態にあるものと思われます。普段はドジばかりなのですが、推理を始めると妙に鋭いのです。

米澤穂信さんの推理小説〈古典部〉シリーズでは主人公がヒロインに振り回されながら日常のミステリーに巻き込まれていきますが、“それ町”の歩鳥は周囲を振り回しながら自らミステリーに足を踏み入れていくタイプです。はた迷惑、とも言います。見ているぶんには面白くていいのですが。

なお、『探偵綺譚 石黒正数短編集』(徳間書店)には、“それ町”のプロトタイプ作品が収録されています。失踪した同級生を探す嵐山歩鳥が、手掛かりを探しに紺先輩の家を訪ねたところ……という、冒頭はシリアスな話っぽいのですが、やっぱり“それ町”的な世界観のコメディです。いまより少し頭身が高いかな? という印象です。

探偵綺譚 石黒正数短編集

『探偵綺譚 石黒正数短編集』 1~2巻 石黒正数 / 徳間書店

さりげなく伏線が張ってあるから油断できない

たまに驚かされるのが、実はさりげなく伏線が張ってあること。例えば1巻11話「猫少年」で、歩鳥は初めて紺先輩と会話をします。紺先輩が「前にキックボードでオマワリ倒してんの見た事ある」と言うので、そのシーンがある3話「セクハラ裁判」を見返してみると、一瞬だけ登場している制服姿のモブキャラがどう見ても紺先輩。思わず「マジか」と声が出ました。

なんとなく描いたモブキャラを再利用した、と思いきや、3話の初登場時から金髪ショートヘアの特徴的な外見で、しかも部活帰りっぽいスポーツバックを持っているのです。『探偵綺譚 石黒正数短編集』に登場する紺先輩とも同じ外見なので、後々登場させる予定をしていて、3話でチラ見せしておいたと考える方が自然かもしれません。

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11話「猫少年」より

 

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3話「セクハラ裁判」より

なお、8巻のあとがきによると、“それ町”は雑誌連載の季節に合わせて描いているそうで、実は時系列がバラバラだったりします。6巻44話「ざっくばらん」は歩鳥の髪型がベリーショートになってしまうエピソードなのですが、次の話からしばらくは元の髪型に戻っています。話を時系列に並べ替える際のヒントになりそうです。意外な伏線が隠れているかも? いろんな楽しみ方ができる作品です。ああ、私も既に、探偵脳に侵されているのかも……。

それでも町は廻っている 1巻

『それでも町は廻っている』を試し読みする

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