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武闘派天才少女作家『響 〜小説家になる方法〜』感想解説|鷹野凌の漫画レビュー

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こんにちは、フリーライターの鷹野凌です。

今回は、小学館「ビッグコミックスペリオール」で連載中の漫画『響 〜小説家になる方法〜』をレビューします。著者は柳本光晴さん。純文学の世界に新星のごとく現れた圧倒的才能の天才作家は、抜き身のナイフのような女子高生だった……というお話です。本稿執筆時点で単行本は5巻まで出ています。「マンガ大賞2017」の受賞作です。

『響~小説家になる方法~』

『響 〜小説家になる方法〜』 1~5巻 柳本光晴 / 小学館

新人賞応募作が希代の傑作なのに

本作の主人公、鮎喰響(あくい ひびき)は、高校生になったばかりの15歳の少女。無造作なセミロングの黒髪で眼鏡をかけいつも本を読んでいる、いわゆる「文学少女」です。彼女が文芸誌の新人賞に投稿した原稿は募集要項を守っておらず、開封されずにゴミ箱行きでした。

原稿をゴミ箱に捨てた先輩編集者は、その理由を「その小説のデキが多少よかったとしても、最低限のルールも守れない作家とは仕事はできない。」と言います。これは一般論としては、間違いありません。そしてそれは、小説のデキが「多少」程度なら適用されるルールでもあります。

若手編集部員の花井ふみ(はない ふみ)が捨てられた原稿をなんとなく読み始めたところ、そのまま食事も忘れるほど夢中になってしまいます。それはまさしく「多少」どころではない、希代の傑作だったのです。

花井は先輩に「今後文芸界は、鮎喰響以前以降と語られるかもしれない。」と語るほど、その作品に惚れ込んでしまいます。ところがその原稿には、名前だけで住所も年齢も職業も性別も電話番号も書いてありません。募集要項以前の問題です。花井は手書き原稿をテキストに打ち直すなど、なんとか新人賞に出そうと画策します。

直情的で武闘派の天才

そのころ、高校へ入学した響は文芸部に入ろうとします。ところが部室は不良の溜まり場。タバコを吹かしながら「ワリーんだけどここは新入部員募集してねーんだ。」「消えろ。」「先コーにチクんじゃねーぞ。」など、響を追い返そうとします。ところがまったくひるまない響は、一番怖そうな男に近寄り「二度言わせないで。入部希望よ。」と告げます。胸ぐらを捕まれた響はニヤッと笑った次の瞬間、その男の小指を躊躇なく折ってしまいます。なんという武闘派。部室から退散していく不良たちの「あの女ちょっとオカシーんだよ。」「関わんねーほうがいいよ…」という評も納得です。

暴力的な作家といえば、酒乱の中原中也や薬物中毒の坂口安吾、家庭内暴力の井上ひさしなどが挙げられるでしょうか。素晴らしい作品を生みだす作家が、素晴らしい人格の持ち主とは限りません。むしろ、呆れてしまうようなエピソードの持ち主の作家は、枚挙に暇がありません。

そんな作家たちのエピソードが可愛らしく感じられるほど、響は「ちょっとオカシー」のです。ムカッときたらすぐ殴る、蹴る、本棚を倒す。直情的過ぎます。抜き身のナイフのようで、少し触れるだけで血が噴き出しそうです。あまりの傍若無人っぷりに、読んでいて何度も大笑いしてしまいました。

そんな彼女の感性から生みだされる作品が、花井に「文壇に革命を起こせる」と断言させるほどの傑作なのです。まさに天才。花井は響を偶然見つけだすことができ、小説家としてデビューさせるため奔走しますが、ものの見事に翻弄させられるのです。嗚呼。

芥川賞をとらなきゃ作家じゃない?

さて本作では冒頭に、花井の先輩編集者が「芥川賞作家の肩書き持っててもこれだもんなぁ。」と、本が売れないことについて愚痴を言うシーンがあります。その一方で、ある登場人物が「芥川とらなきゃ作家じゃないみたいな風潮」と愚痴を言うシーンもあります。

芥川賞は実在の賞です。文藝春秋の創業者である菊池寛が創設した文学賞で、純文学の新人賞という位置づけになっています。同時に創設された直木賞は大衆小説の新人賞という位置づけでしたが、近年では中堅作家やベテランも対象になっています。どちらも年2回の発表です。

芥川龍之介に憧れていた太宰治には、芥川賞選考委員の川端康成や佐藤春夫へ何度も「何卒私に」と懇願する手紙を出していた、という有名なエピソードがあります。結局、川端に素行を問題視され、太宰は芥川賞を受賞できなかったわけですが、いまなお愛される大作家です。

芥川賞が作家にとって特別な存在になったのは、石原慎太郎が『太陽の季節』で受賞したころから。受賞作は世間の関心が高まり、流行作家となることからベストセラーが約束されていたような時期もあったのですが、近年はそれほどでもなくなってきているのが実情。2017年1月時点で累計発行部数278万部の又吉直樹『火花』は、例外です。

そんな今でも、芥川賞受賞作家という「名誉」が得られることには違いありません。本作でも、何人もの作家が芥川賞を欲しがっています。そこへ超新星のように現れた天才作家・響。恐らくほとんどの人が予想した通りの展開になります。みーんな、当て馬です。あふれる才能と素行で周囲を圧倒するさまは、なんだかすがすがしいほど。夢と毒でいっぱいの作品です。

『響~小説家になる方法~』

『響 〜小説家になる方法〜』を試し読みする

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