ぶくまる – 書店員おすすめの漫画・本を紹介!

書店員が選んだ「本当に面白い漫画・本」をご紹介!

読めば登りたくなる!おすすめ登山漫画8選【高尾山からエベレストまで】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

急な斜面をがんばって登れば、山頂からの絶景と、おいしい山グルメが待っている!ウェアや用具も洗練されて、登山は多くの人が気軽に楽しめるようになりました。しかし一方で、世界最高峰の山々に果敢に挑戦する、登山家たちの厳しい世界もあります。

初心者からアスリートまで、さまざまなレベルの主人公が登場する、読めばきっと登山がしたくなる8作品をご紹介します!大自然の中だからこそ展開する人間ドラマはもちろん、登山のやり方や用具の扱い方、実在する山のルートなど、役立つ情報もたっぷりですよ。

舞台は絶景の北アルプス。転ばぬ先の杖としても読んでおきたい『岳』

岳(1)

完結『岳』 全18巻 石塚真一 / 小学館

主人公は、北アルプスで山岳救助ボランティアとして活躍する島崎三歩。かつては、エベレストを筆頭に世界中の山を踏破し、アメリカでは山岳レスキューチームのリーダーまで務めた経歴の持ち主。クライムの技術は一級で、遭難者を背負って崖をよじ登る体力を持つ、山岳救助のスペシャリストです。

三歩は、夏はテント、冬は雪のドームと、一年を通して山中で暮らし、買い出しの時にしか街に降りない生粋の山男。好物は絶景の中で飲むコーヒーです。ロープで崖にぶら下がって、そこから山の上に浮かぶ満月を眺めつつコーヒーを飲むシーンがあるなど、相当の熟練者にしか味わえない景色を、三歩は読者に見せてくれます。

舞台となる北アルプスは、日本を代表する山岳地帯。尖った山頂が特徴の槍ヶ岳(3180メートル)をはじめ、有名な山が連なります。『岳』で描かれる山並みは写真のようにリアル。レギュラーキャラの気のいいおばちゃんがいる谷村山荘には、モデルになった実在の山荘があるそうですよ。北アルプスを訪れたことがある読者には懐かしく、まだ知らない読者には、一度は見てみたいと思わせる風景描写が、たくさん詰まっています。

しかし、テーマとなっているのは山岳救助。さまざまな遭難者が描かれ、作品は山の厳しさも訴えかけます。それに合わせて、雪崩に巻き込まれ雪に埋まってしまった時は、呼吸できるように両手で口元にエアーポケットを作っておくとか、雷の時に岩のすき間に隠れるとかえって危険だとか、危険回避のうんちくも。遭難しない心得を知り、転ばぬ先の杖とするためにも読んでおきたい作品です。

身勝手な行動から遭難してしまった人に対しても「良く頑張った」と声をかける三歩。そこには、山を嫌いにならずに、また登りに来てほしいという思いがこめられています。自分の体力と技能を見極めつつ、ルールを守って登れば、山は楽しく安全な場所。三歩のさわやかな笑顔に触れると、北アルプスに行きたくなること、この上なしですよ。

『岳』を試し読みする

人見知りな女子高生のゼロから始まる登山。初心者に至れり尽くせりの『ヤマノススメ』

ヤマノススメ(1)

『ヤマノススメ』 1~13巻 しろ / アース・スター エンターテイメント

道具を揃えて、しっかりとした登山をやってみたいけど、何から手をつけていいか分からない。そんな超初心者をうまく導いてくれるのが『ヤマノススメ』です。主人公は、高校1年生の雪村あおい。高校入学と同時に再会した幼なじみの倉上ひなたに誘われて、あおいは登山の魅力を体感していくことになります。

と言っても、ひなたも、父が登山経験者ではあるものの、あおい同様の初心者。二人の家の近所にある、標高197メートルの天覧山(埼玉県飯能市)に登るところからスタートし、ひとつひとつ着実に、難易度の高い山に挑んでいくことに。599メートルの高尾山、1786メートルの三ツ峠山、そしていよいよ富士山に。ひなたたちの成長は微笑ましくもあり、実際の山選びも大いに参考になるのです。

この作品のうまいところは、あおいとひなたの周りにバランス良く経験者を配置していること。その最たるキャラクターは、同じ高校の1年先輩である斉藤楓。女子高生ながら、テントを担いで単独で北アルプス縦走をするツワモノで、山の歩き方から、ウェアやグッズの選び方、使い方まで、いろいろアドバイスしてくれるのです。そして何よりも重要なのは、メンタル面でのサポート。とある山であおいが体調を崩し、それでも登ろうとした時は、

山は逃げない!何回だってチャレンジできるんだから焦らないの!!

と、ピシャリと諫めるシーンがあります。物語が進むと、同じ高校の登山部との繋がりもできるあおい達。登山部部長の千住院小春も、いいアドバイザーになってくれます。

登山だけでなく、ボルダリングやキャンプ、トレイルランニングも体験し、アウトドアライフを満喫するあおい。カメラ好きの少女・黒崎ほのかと出会い、山写真にも挑戦します。経験を積むごとに、人見知りの性格も変わり、大人に近づいていく姿は清々しくて、女の子の成長物語としても秀逸。さらに巻末には、その巻に登場した山やグッズの詳細なコラムが。まさに至れり尽くせりの作品といっていいでしょう。

『ヤマノススメ』を試し読みする

登山女子必読!?山グルメとお一人様登山のノウハウが詰まった『山と食欲と私』

山と食欲と私 1巻

『山と食欲と私』 1~5巻 信濃川日出雄 / 新潮社

『岳』にも登場する北アルプスの涸沢(からさわ)カールにテントを張り、自炊した枝豆とウィンナーの炊き込みご飯を、「うまい、うまい」と食べる日々野鮎美。休日のほとんどを山で過ごしている27歳のOLが、『山と食欲と私』の主人公です。彼女の最大の楽しみは山グルメ。テントでの自炊でも、山小屋の朝食や夕食も、おいしいものをほおばっている時の表情は、幸せいっぱい。読んでいるこちらも、食欲がわいてきます。

インスタントラーメンに少し高級なウインナーをまるっと放りこんだ「欲張りウィンナ~麺」、鮭おにぎりをにんにくネギ味噌とともに煮た「即席さけ雑炊」などなど、基本的に鮎美が作るのは、超カンタン料理。ところが、山で食べるということが、それをご馳走に変えます。飲み物では、赤ワインにブルーベリージャムと黒コショウを加えて温めた、2000年前からヨーロッパで親しまれてきたグリューワインなんていう凝ったものも。パスタを水とともにパックに入れ、あらかじめ戻しておくと早く茹で上がるとか、山グルメならではの工夫の仕方も教えてくれます。

もう一つ、鮎美の登山の特徴は単独行、つまりお一人様であるということ。「山ガール」ではなく「単独登山女子」と呼んでほしい、というのが彼女の言い分です。テントは、なるべく女性のいるグループの近くに張るとか、「単独登山女子」ならではの気づかいも描かれています。

しかし、登山仲間はいらないと、かたくなに決めているのかと言えばそうでもなく、学生時代のバイト仲間と山で偶然出会えば、一緒にご飯を食べ、会社の同僚の小松原さんという山友達もできていきます。気負わずに、その時の気分で登山のやり方を自由に選ぶ。そんな気軽さが、鮎美の持ち味。登る山も、高尾山から3190メートルの奧穂高岳までさまざまです。鮎美が選ぶ山のルートとメニュー、さらに調理器具のセレクトやコーディネート上手な山ファッションは、どれも参考になりますよ。

そして、鮎美の愛読書は新田次郎の『孤高の人』。これ、ちょっと覚えておいてください。

『山と食欲と私』を試し読みする

高尾山のガイドとして最適!かわいい天狗にも会える『高尾の天狗と脱・ハイヒール』

高尾の天狗と脱・ハイヒール(1)

『高尾の天狗と脱・ハイヒール』 1~2巻 氷堂リョージ / 竹書房

年間260万人という、世界一の登山者数を誇る高尾山。『ヤマノススメ』のあおい達も、『山と食欲と私』の鮎美も登っている、関東の超メジャーな山です。そんな高尾山に特化した山漫画が、この作品。秋の紅葉、初詣、節分の豆まき、お花見、そしてビアガーデン。1年を通して遊び尽くしている、いい意味で煩悩多き山漫画なのです。

主人公・御岳ノリコはアラサーのOL。少々ワガママな性格ゆえに彼氏にフラれ、傷心旅行に出ることに。金欠のため、行き先は新宿にある会社から1時間弱の高尾山。会社帰りのスーツとハイヒールで、登り始めます。息を切らして登っていると、彼女の前にかわいい小天狗が。おかしな格好のノリコに興味津々で姿を現したのでした。

ということで、この作品における高尾山のガイド役は小天狗の聖(ひじり)。季節ごとに見どころが変わる高尾山を、ノリコは聖とともに満喫します。その中には、山頂から少し奥に入りこんだところにある、なめこ汁が美味しい茶屋・細田屋なんていう穴場も。高尾山のガイドブックとしても最適の作品です。

ノリコのすごいところは、連載7回目にしてやっと登山靴を買ったこと。それまでは、あくまでもハイヒールかブーツで登山。そんなユルい山登りがあってもいいんです。気楽に読んで、週末はぜひ高尾山へ!

『高尾の天狗と脱・ハイヒール』を試し読みする

文系インドア派のやる気なし登山。ズボラの行き過ぎがいっそ痛快な、『人生山あり谷口』

完結『人生山あり谷口』 全1巻 谷口菜津子 / リイド社

高尾山に登っている人は、ここにもいました。エッセイ漫画でもある『人生山あり谷口』の作者兼主人公・谷口菜津子先生。登山漫画の連載を申し出て、編集長にOKをもらい、さっそく初級の山、高尾山に向かいます。一緒に行くのは、『クズの本懐』で知られる漫画家・横槍メンゴ先生と、イラストレーターのせきやゆりえ先生。完全に文系インドア派の女子3人パーティです。

この作品の登山は、とにかくズボラで無計画!2月の雪の残る高尾山に登るのに、街歩きの格好で現れた3人。しかも、集合時間は午後3時という遅さ。雪の中、がんばって山頂を極めた3人でしたが、戻った頃にはケーブルカーの営業は終わっていて、登山道は真っ暗。大げさではなく、決死の思いで下山を果たすことに。こんな感じで登山しちゃってもいいのかと、山に対するハードルを下げてくれる作品でもあります。いや、ズボラ過ぎるのは、誉められたことではないんですけど。

連載のために、その後もインドア派の友人たちと山登りを続ける谷口先生。ハイライトは、山梨県大月市にある岩殿山(634メートル)です。標高は低めですが、岩を鎖をつたって登る、いわゆる鎖場が3つもある、なかなかにハードなコースであり……。果たして谷口先生は、ケガすることなく山頂にたどり着けるのでしょうか?このズボラ登山漫画は、意外にスリル満点だったりするのでした。

『人生山あり谷口』を試し読みする

『JIN-仁-』の作者・村上もとかが描く、トップクライマーたちの激アツ短編集『岳人(クライマー)列伝』

岳人(クライマー)列伝

完結『岳人(クライマー)列伝』 全1巻 村上もとか / 小学館

国内の山を登る、等身大の作品を紹介してきましたが、ここから舞台は一気に、世界の最高峰へ。アスリートたちの物語を紹介します。まずは、『JIN-仁-』の作者でもある村上もとかさんが、80年代初めに描いた全8話からなる短編集『岳人列伝』

第1話「南西壁」の舞台はエベレスト(8848メートル)。国際登山隊の隊員ロニーとシェルパのアン・プルバの物語です。シェルパとはエベレストの麓で暮らす少数民族のことで、屈強な男たちはヒマラヤ登山の案内人を務めています。アン・プルバは鉄の肉体と鉄の心を持つシェルパ頭です。

快調に進んでいた登山。ですが、天候が急変し、雪崩が登頂隊員たちを飲みこみます。他の隊員は全滅し、荒天の中、二人だけで山頂へアタックをかけたロニーとプルバ。

みせてやろうじゃねえか……おれたちの………最高の笑顔を!!

極限状態での二人の熱き絆が、読者の胸に響きます。

ラストの第8話で描かれるのは、登頂の難しさではエベレスト以上という非情の山・K2(8611メートル)。ここでも荒天が隊を襲い、隊長からアタック中止を命令されることに。その時の主人公クルスの、

今度ばかりはちょいとやりすぎてみたいんだ!

は名ゼリフです。命を賭けて山に挑む男たちのドラマを堪能してください。

『岳人(クライマー)列伝』を試し読みする

新田次郎の山岳小説を、現代風にアレンジ。孤独なクライマーの半生を描く『孤高の人』

孤高の人 1

完結『孤高の人』 全17巻 坂本眞一・鍋田吉郎・新田次郎 / 集英社

『山と食欲と私』の鮎美が山で愛読し、感動に打ちひしがれていた新田次郎の『孤高の人』。1969年に出版された山岳小説の名作です。それを原案として、現代風に大胆にアレンジしたのが、この作品。漫画を担当するのは、現在、歴史漫画『イノサン』の続編『イノサン Rougeルージュ』を連載中の坂本眞一先生です。

物語は主人公の森文太郎の高校時代からスタート。クラスメイトや先生の影響を受け、ロッククライミングの楽しさに目覚める文太郎ですが、とあるトラウマをかかえ、自分は他人とはうまくやっていけないと思いこんでいます。実際、文太郎がクライミングにのめりこむたびに、不幸な出来事が重なっていきます。幾多の人の死を経験し孤立を深める文太郎。社会から弾かれるたびに、彼には山しか存在理由がなくなっていくのです。

物語中盤のハイライトは、5人のパーティによる厳冬期の北アルプス全山縦走。そしてクライマックスでは、文太郎を慕う年下のクライマー・健村歩とペアでK2へ。極限状態にこそ、生を見出す男の挑戦が続きます。

この作品の大きな特徴は、イマジネーション豊かな山岳表現。たとえば、雪崩は、巨大な貨物のコンテナが転がる絵となり、満点の星空はペガサスの飛翔する姿として描かれます。山という現実と幻想のはざまを彷徨う孤高の人。その寂しさと美しさを感じさせてくれる作品です。

『孤高の人』を試し読みする

エベレスト初登頂の謎と、ある天才クライマーの生き様。時を越えた男たちの物語、『神々の山嶺』

神々の山嶺 1

完結『神々の山嶺』 全5巻 夢枕獏・谷口ジロー / 集英社

2016年3月に公開された岡田准一さん主演の映画「エヴェレスト 神々の山嶺」。その原作小説を漫画化したのが、この作品。作画の谷口ジロー先生は、その前にもヒマラヤの山々を題材にした『K』を著していて、リアルな登山描写は、すでに高い評価を得ていました。

1924年、エベレスト初登頂寸前に姿を消した、イギリスの登山家マロリーとアーヴィン。マロリーが持っていたであろうカメラを、カメラマンの深町誠がカトマンズの店で見つけたところから、物語は始まります。その店にカメラを持ちこんだのは、現地でポーターをしている日本人。深町は、それが伝説の登山家、羽生丈二であることに気づきます。

日本に帰国した深町は、さまざまな関係者に面会し、羽生の半生を取材します。そこで浮かび上がってきたのは、山に対してとことん貪欲で、仲間の心を踏みにじってでも成果を求めるエゴイストの姿。それと同時に、羽生は不世出の天才クライマーなのでした。

マロリーのカメラの謎と、ネパールで暮らし、エベレスト単独登頂のチャンスを狙う羽生。その二つが軸となって、物語は進んでいきます。仲間の死や恋人への思いが絡み、人間ドラマは濃密。クライマックスに谷口ジロー先生の精緻な絵で描かれる、登攀(とうはん)シーンは圧巻です。そして明かされる歴史の謎。完成度の高いストーリーは、何度も味わいたくなるでしょう。

『神々の山嶺(いただき)』を試し読みする

最後に

なぜ登るのかと問われ、「山がそこにあるからさ」と答えたのは、『神々の山嶺』にも出てくるマロリー。人はさまざまな想いを山に寄せるからこそ、かえって言葉はシンプルになっていくのかもしれません。街の雑踏や日々の仕事から離れ、自分を見つめ直すことができるのが、山。コミカルであっても、シリアスであっても、山漫画にはピンと通った芯があるように思います。漫画でたっぷり山の良さを味わった後は、自らも出かけてみてはいかがでしょうか?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

こちらもおすすめ

時空を超える壮大なドラマ!タイムスリップ漫画11選
元祖スポ根から理論派まで!おすすめテニス漫画8選
田舎を舞台に起こる悲劇…クローズドサークル系漫画3作
獣の傭兵と美しい魔女『ゼロから始める魔法の書』感想解説|鷹野凌の漫画レビュー
1冊で何度も美味しい!BL漫画アンソロジーおすすめ7選
日常系ミステリー?『それでも町は廻っている』感想解説|鷹野凌の漫画レビュー