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珠玉のサスペンス・ミステリー『僕だけがいない街』感想解説|鷹野凌の漫画レビュー

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こんにちは、フリーライターの鷹野凌です。

今回は、KADOKAWA『ヤングエース』で連載中のコミック『僕だけがいない街』をレビューします。作者は三部けいさん。本稿執筆時点で7巻まで刊行されており、フジテレビ・ノイタミナで2016年1月からアニメも放送中です。読み始めたら止まらない、先の展開が気になって仕方がないサスペンス・ミステリーです。極力ネタバレを避けてお届けします。

僕だけがいない街(1)

『僕だけがいない街』 1~7巻 三部けい / KADOKAWA / 角川書店

タイム・リープならぬ「再上映(リバイバル)」

時は、FIFAワールドカップドイツ大会開幕直前の2006年5月。主人公の藤沼悟(29)は、うだつの上がらないマンガ家です。ピザ屋でバイトをしながら、編集部に原稿を持ち込む日々を過ごしています。編集者から「伝わってこない」「足らない」「作者(あなた)の顔が見えて来ない」などと辛辣なことを言われますが、踏み込んで描けない自分をどこか冷めた目で、客観視しているような様子がうかがえます。

そんな彼がときどき遭遇する、タイム・リープ(時間跳躍)。身の回りで何か「悪い事」が起こると、彼はいきなり数分過去へ戻ります。そしてその「悪い事」が解決するまで、何度も同じ光景を見る事になります。彼はこの現象をタイム・リープではなく「再上映(リバイバル)」と名付けています。

「再上映」が起きても彼自身の記憶は残ったままなのですが、肝心の「悪い事」が何なのかはわかりません。そこで彼は「再上映」が起きると周囲の「違和感」を懸命に探し、トラブルを回避します。とはいえ、周囲で起きるマイナスがプラスマイナスゼロになるだけで、結果的に彼にとってはマイナスになる場合も多いようです。

「再上映」はなぜ起こるのか?

周囲で起こる「悪い事」が何かを知らないまま「再上映」が発生するため、彼は「まるで誰かに『お前が防げ』と強制されているかのよう」だと感じています。タイム・リープというのは、超能力で時間跳躍を行うこと。素直に読めば、この「再上映」は彼の能力ではない、ということになります。

ところが後に、彼が「来い!」と大声で叫び強く念じたら「再上映」が起きます。ということは、これは彼の能力だったのでしょうか? 過去の「再上映」は無意識に発生していたのでしょうか? 彼自身の危機に対して「再上映」が起きたことはないらしいので、もしかしたらミスリードを誘われているのかもしれません。むむむ。謎だ。

18年前に死んだ同級生の記憶が蘇る

ある日、ピザの配達中に発生した「再上映」によってトラックが起こす事故を回避した彼は、そのまま他の車と正面衝突して気を失い入院してしまいます。走馬燈のように思い出す18年前のこと。忘れていた同級生の死。見舞いに来た母親から、当時はその事件の記憶を息子たちから取り除こうと必死だったと言われ、記憶の蓋はさらに開いていきます。

連続誘拐殺人事件の犯人として逮捕された、仲良くしてくれた近所のお兄さん。母親に向かって「僕なら助けられたハズなのに」と泣く自分。事件のことを「忘れさせられた」のではなく、「思い出す事を自分に禁じた」こと。やがてその18年前の記憶が、現在の自分の周囲で起こる事件とシンクロしていきます。

「忘れよう」と思っても忘れられない

ところで、人間というのは、案外忘れっぽいものです。反復して思い出すことによって初めて、記憶は定着していきます。その過程で、記憶を捏造してしまうことだってあります。私は記憶力に自信がないので、記憶するより記録しておこうと心がけています。記録を見返すことで、記憶が蘇ってくるからです。写真なんかは、思い出すのに最適です。

ところが「忘れよう」と思ったことは、なかなか忘れることができません。「忘れよう」と思った時点で、その出来事を想起してしまっているのですよね。辛いこと、苦しいこと、悲しいこと。強烈な記憶は、なかなか忘れられません。夢に見てしまうことだってあります。そうやって反復することによって、長期記憶になってしまうのです。

「再上映」によって記憶が定着している?

そう考えると、本作で発生する「再上映」は未来を変える効果とともに、主人公の藤沼悟へ記憶を定着させる効果も生んでいることになります。トラブルを回避することにより未来は変わりますが、そこへ至るプロセスは繰り返されています。何度も「再上映」されれば、忘れにくくなるはずです。

反復により忘れにくくなったことと、忘れてしまったこと。「再上映」されたことと、一度しか経験しなかったこと。現在から見た過去と未来。繰り返される過去から見た現在(その時点)と未来。あくまで私の想像ですが、「再上映」現象には「お前が防げ」という意図とともに、「忘れてはならない」という意思が働いているような気がします。

連続誘拐殺人事件の真相は?

さて、現時点で刊行されている7巻までのあいだに、連続誘拐殺人事件の真相は判明します。具体的に何巻と書くのもネタバレになってしまうと思うのでここでは伏せますが、読み進めていてそのシーンまで辿り着いたとき、私は「やっぱり!」と感じました。といっても、そこまでに与えられていたヒントで謎解きしたわけではありません。自分でもなぜ「やっぱり!」と感じたのか、初めて読んだときには理由がハッキリしませんでした。

主人公の藤沼悟と同じように、作中のどこかで「違和感」を覚えたに違いありません。なぜ「やっぱり!」と思ったのかを知るため、もう一度最初から読み返しました。なにげない一コマ。なにげないセリフ。なにげない述懐。なにげない表情。あちこちに「違和感」がちりばめられています。ハッキリとしたヒントが示されているわけではないですが、真相を知った後に読むと、なるほどなあ、と思えます。特に「目」が。本作は、何度も繰り返し読むべき作品です。

小冊子『僕だけがいない街 入門ガイドブック』はコミック読後に!

なお、アニメ化に伴い小冊子『僕だけがいない街 入門ガイドブック』が全国の書店で無料配布されたり、TVアニメ「僕だけがいない街」公式サイトで期間限定無料配信されたりしています。登場人物紹介や、三部けいさんのメッセージ、声優・スタッフへのインタビューなどが収録されていますが、ネタバレを極力避けたい方はいま読まない方がいいでしょう。コミック2巻最後までのダイジェスト版も収録されているからです。2巻までの展開も圧巻なのです。

ぜひともまず、コミックを読みましょう。

僕だけがいない街(1)

『僕だけがいない街』を試し読みする

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