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鉄腕アトム誕生前の物語『アトム ザ・ビギニング』感想解説|鷹野凌の漫画レビュー

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こんにちは、フリーライターの鷹野凌です。

今回は、青年漫画誌『月刊ヒーローズ』で連載中の『アトム ザ・ビギニング』をレビューします。手塚治虫さんの名作『鉄腕アトム』を原案とし、コンセプトワークスに漫画家のゆうきまさみさん、漫画制作にカサハラテツローさん、監修に手塚治虫さんのご子息で“ヴィジュアリスト”の手塚眞さん、手塚プロダクションが協力という豪華な陣容の作品です。

アトムが誕生する前の物語を描いた「外伝」で、『鉄腕アトム』を知らなくても楽しめると思いますが、知っているとより楽しめることでしょう。単行本は本稿執筆時点で3巻まで刊行中で、テレビアニメ化が発表されています。

アトム ザ・ビギニング(1)
『アトム ザ・ビギニング』 1~3巻 手塚治虫・ゆうきまさみ・カサハラテツロー / ヒーローズ

天馬博士とお茶の水博士の学生時代

鉄腕アトムの生みの親である天馬博士と、育ての親であるお茶の水博士。本作は、彼らが練馬大学ロボット工学科修士課程に所属していた、学生時代が舞台です。まだ「博士」ではない天馬午太郎(ウマタロウ)とお茶の水博志(ヒロシ)は、同じ研究室で人工知能搭載型ロボットの研究開発をしています。なにか上手くいったときは、互いの鼻をつまんで「俺たち天才!!」と言い合う仲良しコンビです。

そしてもう1人(?)の主人公と呼ぶべきなのが、ウマタロウとヒロシが造ったロボット「A106(エーテンシックス)」通称〈シックス〉です。筋肉質な大人の造型をしており、頭の模様以外にアトムっぽいところはありません。出力は1千馬力。アトムの10万馬力(のちに天馬博士が改造して100万馬力)には、まだ遠く及びません。

しかし〈シックス〉には、次世代人工知能の「ベヴストザイン(Bewußtsein)」システム試作版が搭載されており、けっこう高性能です。誰から命令されたわけでもなく、自らの判断で大事故を未然に察知し防ぐという快挙をいきなり成し遂げたりします。既に自我があるのです。

お茶の水博士に妹が!?

アトムには、お茶の水博士が造ったウランちゃんという妹がいます。そして『アトム ザ・ビギニング』のヒロシには、蘭(ラン)という妹がいます。本稿執筆にあたって『鉄腕アトム』『アトム今昔物語』『鉄腕アトム別巻』などを読み直してみたのですが、作中に「お茶の水博士に妹がいる」といった描写は見当たらなかったので、『アトム ザ・ビギニング』のオリジナル設定だと思われます。

ランは高校生ですが、小学生に間違えられるような外見です。クルッと両側にはねた髪型などが、ウランちゃんに似ています。恐らくのちに、お茶の水博士がウランちゃんを造るとき、自分の妹をモデルにした、ということになるのでしょう。高校のロボット部所属で、練馬大学に遊びに来ては廃材の山からロボットに使えそうなパーツを探している、無口キャラです。

ちなみにアトムには、ウランちゃんと同じくお茶の水博士が造ったコバルトという弟も存在します。が、本作にコバルトを連想させるようなキャラクターは、いまのところ登場していません。いずれ出てくるのでしょうか? 楽しみです。

5年前に起きた「あの大災害」の謎

他の重要キャラクターとしては、練馬大学の主席研究者で脚が不自由な堤茂理也(モリヤ)と、なぜかヒロシのことが気になって追い回している堤茂斗子(モトコ)の兄妹が挙げられます。モトコは単純にお色気担当っぽいのですが、モトヤは裏表がある性格で、どうやら本作の謎を知っているような様子がうかがえます。

その本作の謎とは、1巻の冒頭カラーページで描写される、5年前の「あの災害」です。街中が炎に包まれ、建物が崩壊し、道路はめちゃくちゃ。大きな地震が起きた跡のように見えるのですが、地震だという説明はありません。詳細な規模や原因などはおおやけにされないまま、作中時点の現在に至っています。

その災害からの復興に伴い、技術革新が進んだことで、ロボット産業は急速な成長を遂げます。ゆうきまさみさんの『機動警察パトレイバー』に登場する、歩行式作業機械「レイバー」のような姿が本作の工事現場にチラッと見えて、関係者の作品繋がりを感じられます。なんかこういうの、いいですね。

なお、人間が遠隔操縦するタイプが第1世代型、人間が搭乗するタイプが第2世代型、〈シックス〉のような自律行動するタイプは第3世代型、とされています。作中時点では第2世代型がまだ主流で、第3世代型はまだ出始めたばかり、という段階のようです。つまり〈シックス〉が自我を持っているというのは、作中時点では突出した性能なのです。

「ロボッティング」ではなく「ロボレス」

ウマタロウとヒロシの研究室にはお金がないので、たくさんアルバイトをしてその給料を研究開発費に充てています。そしてある日、賞金目当てでロボット・レスリング、通称「ロボレス」に〈シックス〉を出場させます。制限時間内に相手が動けなくなったら勝ちというロボットバトルで、機械同士の激しいぶつかり合いが人気のエンターテインメントです。

ちなみに『鉄腕アトム』にも本作と同じような、ロボットが闘技場で戦うバトル「ロボッティング」が存在します。ウランちゃんが勝手に出場して暴れる、という話もあったりします(『鉄腕アトム』8巻「ウランちゃんの巻」)。

鉄腕アトム 8

ロボット同士の格闘は、ロボット漫画の定番ですね。殴り、殴られ、壊れ、部品が飛び散る迫力シーンが、本作でも描かれています。

「心やさしき科学の子」

ところが〈シックス〉は、ウマタロウの「バシッと相手の動きを止めてこい!」という指令に対し、遠隔操作のアンテナパーツを外したり、操縦している人間をロボットから抜き取ったりと、対戦相手を極力壊さないようにして、勝利していきます。〈シックス〉のキャッチコピーは「心やさしき科学の子」。『鉄腕アトム』の主題歌が、読みながら脳内で再生してしまいました。

決勝で〈シックス〉は、2大会連続優勝中である無敵の軍神〈マルス〉とぶつかります。その姿は、大学でランを襲撃した(そして〈シックス〉が守った)ロボットにそっくり。ウマタロウはモリヤのことを疑っていますが、設計者はロロ博士という謎の女性。謎が折り重なり、少しずつ解き明かされていきます。

なお、本作でウマタロウとヒロシは仲良しコンビですが、『鉄腕アトム』の天馬博士とお茶の水博士は反目する仲。『アトム今昔物語』には、天馬博士がお茶の水博士のことを「わしの敵だッ」と言うシーンまであります(『アトム今昔物語』2巻 第12章「ベイリーの惨劇」)。

アトム今昔物語 2

二人は何をきっかけにして、袂を分かつことになるのか。それが描かれるのはきっと、本作の終盤なのでしょう。この先の展開が気になる良作です。

アトム ザ・ビギニング(1)
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