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超能力少女と頑固親父の物語『アリスと蔵六』感想解説|鷹野凌の漫画レビュー

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こんにちは、フリーライターの鷹野凌です。

今回は、今井哲也さんの漫画『アリスと蔵六』をレビューします。超能力を持った少女と頑固親父が出会い、さまざまな事件に遭遇していくファンタジー作品です。徳間書店の青年向け漫画誌「月刊COMICリュウ」で連載しており、既刊は7巻まで発売中。2013年の第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作です。また、2017年のテレビアニメ化が予告されています。

■アニメ「アリスと蔵六」公式サイト

『アリスと蔵六』 1~7巻 今井哲也 / 徳間書店

アリスの夢とトランプと鏡の門

まず、本作の世界設定について解説します。とはいえ普通に本作を読み進めれば、自然と頭に入るような構成になっているのでご安心を。舞台は現代の日本、東京が中心です。スカイツリー、歌舞伎町、竹下通り、都庁など、見慣れた景色が頻出します。そこで暮らす人々は、私たちと変わらぬ日常を過ごしています。

問題は「アリスの夢」と呼ばれる超能力者たちの存在です。想像したものを1つだけ、なんでも現実にしてしまう能力の持ち主で、世界で百数十名ほど確認されているようです。実体化したモノは「トランプ」と呼ばれています。基本は1人につき1種類です。鎖の付いたモノを出す、空を飛ぶ羽を生やす、絶対に当たる弓矢、巨大な腕など、さまざまな「トランプ」があります。

「トランプ」を呼び出すときは、「鏡の門(ルッキングラス)」という円環状のヴィジョンを媒介にします。初めて「鏡の門」を発現させたときに、たまたま脳内に強く思い描いていたイメージが1つ、実体化するようです。つまり、通常の「アリスの夢」は後天的に成るものです。原因はまったくわかっておらず、世界中の軍などで研究対象になっています。

「鏡の門」の発現には大量のエネルギーを必要とするため、猛烈にお腹が空きます。エネルギーが切れてしまうと「鏡の門」が起動できないため、「アリスの夢」はだいたいいつも、なにかを食べ続けています。このように、普通の人からするとめちゃくちゃな存在ですが、元は普通の人間です(犬の能力者もいますが)。

紗名と蔵六

「アリスの夢」の中でも、さらにめちゃくちゃな存在が、主人公の紗名(さな)です。外見は10歳くらいの女の子ですが、初対面の相手の考えを読み取ったり、瞬間移動したり、車を念動力で動かしたり、なにもない空間から子ブタを発生させたりと、他の「アリスの夢」が1人1種類の「トランプ」なのとは明らかに性能が異なります。実は彼女は、エネルギーと想像力が及ぶかぎり、どんな現象でも自由に発生させられる特異な存在なのです。そのため「赤の女王(クィーン)」と呼ばれ、特別扱いされています。

紗名は自分の能力で作った「世界(ワンダーランド)」で暮らしていたのですが、その「世界」は研究所の中で展開された異空間でした。彼女は研究対象として観察されていたのです。実験で友達が人間ではなくなってしまう姿を見て怖くなり、彼女は研究所を逃げ出します。そして、追っ手の「アリスの夢」との能力バトルが起きます。

そのバトルに巻き込まれたのが、頑固親父の樫村蔵六です。「曲がったことが大嫌いなんだ」が口癖の、“昭和”で“江戸っ子”な感じの爺さんです。暴れ回る紗名と追っ手の2人組みをあっという間に大人しくさせ、「いい加減にしろ手前ェら!!」とゲンコツを飛ばして説教をします。能力やその理屈はともかく、周囲に迷惑をかける危ない行為が蔵六には許せなかったのです。

常識も礼儀も知らない紗名。ただ、研究所以前の記憶がなく、肉親の存在も不明、戸籍もないときます。そういった彼女の身の上に蔵六は同情し、1週間だけ世話を見てやると約束します。想像すればなんでも実現できてしまう紗名の能力にはまったく興味を示さず、普通の1人の人間として扱うのです。そこへ、研究所からの新たな追っ手が現れ……といったストーリー展開になっています。

不思議の国のアリスと鏡の国のアリス

さて、「アリス」「ワンダーランド」「トランプ」「赤の女王」といった単語から連想できると思いますが、本作はルイス・キャロル『不思議の国のアリス(Alice’s Adventures in Wonderland)』と、その続編『鏡の国のアリス(Through the Looking-Glass, and What Alice Found There)』をモチーフにしています。紗名の「世界(ワンダーランド)」は、彼女がお気に入りの絵本の一場面を再現しようとして作り出した異世界なのです。

例えば、第1部の各話のあいだには、『不思議の国のアリス』からの一節と、紗名の姿をしたアリスの挿絵が添えられています。第1話と第2話のあいだには、『不思議の国のアリス』第6章「ブタとコショウ」から

“That depends a good deal on where you want to get to,” said the Cat.

(「それは君がどこに行きたいかによるね。」とネコは言いました。※1)

という、チェシャ猫との会話シーンが採られています。研究所から逃げ出した紗名が、初めて体験した外の世界で協力者から次の行動を示唆されたこととの関連でしょうか。

第2話と第3話のあいだには第11章「タルトをぬすんだのはだれ?」の一節

`The Queen of Hearts, she made some tarts, All on a summer day: The Knave of Hearts, he stole those tarts, And took them quite away!’

(ハートの女王、タルトを焼いた。こっそりと。ハートのジャック、とってっちゃった。ごっそりと。※2)

という、ウサギが訴状を読み上げるシーン。お腹を空かせた紗名に、蔵六の孫娘・早苗がホットケーキを作ってあげることとの関連でしょう。

第3話と第4話のあいだには第6章の一節

`If it had grown up,’ she said to herself, `it would have made a dreadfully ugly child: but it makes rather a handsome pig, I think.’

(「あれが大きくなったら、ひどくみにくい子どもになるわ。だけど、ブタとしてはかっこいいのかも。」※3)

という、公爵夫人から預かった赤ん坊がいつのまにか子ブタに変わったシーンが入っています。紗名が能力で生み出してしまったブタとの関連でしょう。

他にもいろいろ『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』と関連するシーンがあります。白ウサギやチェシャ猫も出てきます。ストーリー展開を暗示するようなものから、あまり関係なさそうなものまで、いろいろです。考察してみると面白そうです。

 

※1~3 日本語訳出典:『新訳 ふしぎの国のアリス』 ルイス・キャロル・河合祥一郎・okama / KADOKAWA / アスキー・メディアワークス

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